今宵、銀河を杯にして

2022年7月24日

惑星ドーピアに数多ある戦闘車輌の中でも最も長いパーソナルネームを持つ戦車“マヘル-シャラル-ハシ-ハズ”。
その名付け親であるアムジ・アイラー一等兵とクアッシュ・ミンゴ二等兵は、自分たちが乗るその車輌のパーソナルネームゆえに時に利用し時に振り回されていた。
ある日、二人は非地球生命体バシアンに対し自らの新戦術論を立証すべく意気込んで地球からやってきたカレブ・シャーマン少尉を新たな車長に迎えるが…
不条理な戦いの中、不死身の宇宙戦車との奇妙な友情と連帯を描く戦争SFの傑作。
戦車のパーソナルネームによって起きた一連の事件がまず面白く興味を惹かれました。
乗車しているアムジ・アイラーとクアッシュ・ミンゴのやる気のなさも嫌いではない。
やる気ないのに馬鹿なことには力を入れてたりするところとかも。
淡々と悲劇的ともいえるような出来事が起きていくけれど、その内容がなんともシュール。
何も知らないカレブ・シャーマン少尉をだますためにアイラーとミンゴがやった事には吹きだした。
大佐と少尉のやり取りもいいな。
兵士用の食事の作り方にも吹いた。
いちいちもっともだと思える少尉の脳内の突っ込みがたまりません。
すでにドーピアに馴染んでいるアイラーとミンゴのやり取りも面白いし、少尉とのギャップもいい。
マヘルシャラルハシハズの暴走辺りからわくわくしてきました。
この頃には少尉もあっちに馴染んできててほんのり頼もしく三人の連係もいい。
野生化したコンピュータ、オーソロイドやコンピュータの生殖行為と子供などの設定が面白い。
意思疎通ができず姿さえ不明な敵の存在、己の意思を持ったコンピュータたち。
同作者なためもあってかどこか戦闘妖精雪風を思わせる部分も多い。
野生化したあのコンピュータの再登場には燃えた。
人と異なる思考をしつつも人の味方であるコンピュータ。
コンピュータと似た思考を持ちながらも人と戦うことでしか接触していない謎の敵。
これらの関係が好き。
人と密接に関わり意思を持ちながら、オーソロイドやアンドロイド以外のコンピュータたちが何を考えているのか、どの程度まで正確な意思の疎通が可能なのかが気になった。
コンピュータを一種の生命体と考えると、彼らがこの作品のような存在になるのは怖いような楽しみなような複雑な気持ちになる。
できれば人とよいパートナー的関係を維持してほしい。
自分でもその感情は上手く説明できないけれど、マヘルシャラルハシハズが自我に目覚め少尉と会話した瞬間涙が出た。
心が通った瞬間だったからかな。
この作品が世界観設定に対して親しみ易く感じるのは、人間味溢れる登場人物たちと身近に感じられるテーマの両方が揃っているからかもしれません。文章も読みやすいので硬いSFはちょっと…という方にもおすすめ。

神林長平

Posted by tukitohondana

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