アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風
早川書房
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ジャム側につきFAFを支配した。ロンバート大佐から地球のジャーナリストであるリン・ジャクスンに届いた手紙に書いてあったのは人類に対する宣戦布告だった。
FAFと特殊戦はついにジャムの総攻撃に晒され、零と雪風は認識と主観が通用しない過酷な現実に遭遇する。
シリーズ待望の第3作。
中立であることが困難でも中立であろうとするジャーナリスト、リン・ジャクスン。
彼女の視点から入るのは、久しぶりに雪風という世界に接する人間としては整理した情報を読めるのでありがたい。
前巻のラストからどう続くんだと思っていたけれど、なるほどまだまだ生き残りの関係者はいるから続けられるか。
存在を忘れかけていたロンバート大佐がなかなかぶっとんでいていい。
合理的でも論理的でもなく、ただ目的のために手段を選ばない辺りは人間らしい気もするし。
個人の思考とその結論までのプロセス、集団の思考。面白い。
現段階ではジャムは全体で一つの思考をしているように見えるので、彼らが人間をどう見るかというのも気になる。
人間が解にたどり着くまでの段階を考慮するのも個によって別々の思考があるからなのでは。
集団で一つの思考や答えしかないなら、そこに意味はないわけで。
クーリぃ准将は恐いが上司としてはいいような気もする。彼女の意に逆らわなければ。
フォス大尉との会話を読んでいるとそう思い、後のブッカー少佐視点でその思いはより強まった。
クーリぃ准将視点がこれまた想像以上に感情的で驚いた。
それでいて冷静に物事を見ているのが分かり、もっと冷たい印象を持っていたので不思議な気持ち。
存在するかしないか分からない敵ジャム。
何者か何を考えているのか分からない敵との戦いは精神消耗するだろうな…
日常でもよくわからないものは恐かったりするし。
とりあえずあるがままを受けれないとこちらも混乱してくるな。
FAF内でジャムと戦っているからこそ対抗できるのであって、地球の人類全てに対してジャムが関与してきたら大混乱ではすまないのでは?人類すぐに終了すると思う。
物理的な攻撃よりある意味恐い。
コーヒーに対するジョークとその後の会話が好きだな。
先の話で准将視点もあったので素直にこんなクーリぃ准将も受け入れられる。
雪風にとっての人間についての解釈にちょっとびっくりすると共になるほどなと思った。
コンピュータの解答が時に非情に思えるのもそのためではないだろうか。
人間が非合理的で理屈に合わないことをやるのは、あるがままを受け取れないからだろうし。
あるがままをそのまま受け取るのが当たり前の彼らが人間的でない判断を下すのはそのためだと思う。
機能的な部分を見れば人間も自己のシステムの一部にすぎないというのも頷ける。
人間と機械知性体の分離と世界認識の共有。認識を共有しても互いを理解できない両者。
面白い。
雪風の目的があくまでジャムを叩くことだという信頼はあるものの、何を意図して実行したのかが分からない雪風の行動。
機械知性体の行動に対して目的を推理する零と少佐の会話も面白い。
命のかかった心理戦という感じで。
エレベータでのID入力についての少佐とSTCのやり取りにはちょっと笑ってしまった。
監視カメラで誰が使用しているのか分かるからID入力は確かに必要ないかもだが、矛盾はないのに不要なことを人間が機械にさせられているというのは滑稽に見えた。
いつジャムが仕掛けてきたかを推理していくのも興味深い。
考えようによっては人類がジャムを認識した時点ではないかという気もする。
地球はまだ存在する。戦いはまだ続けられる。
そこで終わっているので、これまた続きが読めるということか。
終わりのない先の見えない戦いの行方が気になるのでぜひまた続きが読みたい。