獣の奏者 外伝 刹那

上橋 菜穂子
講談社
発売日:2010-09-04

エリンとイアルの同棲・結婚時代を書いた「刹那」、エサルが若かりし頃の苦い恋を思い返す「秘め事」、エリンの息子ジェシの乳離れの頃を垣間見る「はじめての…」が入った獣の奏者・外伝。
【刹那】
本編は人と獣の物語といったイメージがあるので、それを貫くためにもこの話は別になっていてよかったと思う。
とはいえ、エリンとイアルが夫婦になった経緯は気になっていたので読めて嬉しい。
本編でも書かれていた二人の静かでありながら激しい思いは、二人の互いへの想いにも表れていて胸を締め付けられる。
本編も外伝も重く厳しい世界観展開の中で、心があたたくなるような繋がりが深く自然に綴られていて好きです。
イアルがが妹と再開し母と妹の中で自分がどういった存在だったのかを知った時の反応にはぞくっとした。
常に冷静だと思っていたイアルの中の人間らしい感情には驚いたようなほっとしたような気持ちになった。
そして、エリンの命と人生に対する考えには心を揺さぶられた。
彼女が言うからこそ重みもある内容だったけれど、だからこそエリンの人生を振り返って込み上げてくるものがあった。
二人の恋の物語であり命の物語であったように思う。
生まれてくる命、人の心の中にある命、生きている命、亡くなる命。
この世界に生まれてくるということ、生きるという事についても考えさせられた。
イアルがやっと涙を流した時は涙をこらえることが出来なかった。
エリンだけでも間に合ってよかったと思う。
たとえイアルが全てを知ることで悔いることになったとしても、別れた後の母について知った事はこれからの彼の人生においてきっと意味のあることだったから。
【秘め事】
エサルさんは若い頃もいいなぁ。こういう女性キャラ好きです。
父親にタムユアンに行きたいと告げるシーンが好き。
エサル、ジョウン、ユアンの会話は読んでいて和む。
エサルと王獣の出会いは印象に残った。
エリンと王獣たちとの関係も大好きだったけど、エサルと王獣の関係にも惹かれるものがある。
飼われた王獣に惹かれる気持ちはどこか分かる気がした。
ホクリ師に師事し山に入ってからの日々は短くもあたたかくわくわくするものだった。
その前後で静かに進行する秘めた恋は思いのほか激しいもので…少し驚いた。
切なく惹かれる一方で、人も生き物である以上は己の性別が負う宿命(本能)には抗えないのか…という複雑な思いもある。
多くのものに恵まれ未来を見れながらどこか刹那的な生き方をするユアン。
話が進むと彼がより魅力的に見えてきた。
一人の人として生きるということ、獣と共に生きるということ、獣の病を治すということとは何なのか。
エサルという一人の女声の生き方の中で教えられた気がする。
ユアンとはまた少し方向性が違うもののエサルも危うい生き方をするよなぁ。
うーん、そこがまた心配になりつつもひきつけられる。
師とエサルの父のやり取りはいいなぁ。
師の考え方や言葉も好きだけど、本当にいい人だよね。
ユアンが送ってきた書物には胸の中が暖かくなった。
二人の繋がりはこれはこれでいいな。
幸せには様々な形があるってことを思い出させてくれた気がする。
【初めての…】
なにげない日常の様子なのに、今まで読んだ物語を思い出すと、幸せだったんだなぁ…エリンは獣の奏者としてだけでなく色々な立場で行き、幸せを感じる瞬間があったんだと思うと泣きそうになりました。
本編の方もまた読みたい。

あ行

Posted by tukitohondana

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