同士少女よ、敵を撃て


母と友人、故郷を失った少女セラフィマが復讐のため狙撃手を目指す。
そういえばソ連兵士主人公の話は読んだ覚えがない。なので良くも悪くも女性を自然と兵士に加え狙撃手として育成するという展開が新鮮だった。

凄惨な物語の始まりとは対称的に、狙撃手になるために学ぶ辺りは若い女性が多いこともあり学園モノっぽい雰囲気すらある。
その辺のギャップに引き込まれた。
生まれも育ちも違う女性たちだけど皆が家族を敵に殺されていて戦うしか生きる道は無いという過酷な状況。なのだけど、仲間意識が芽生えたり、ライバルとして競い合ったり、冗談を言い合ったりする。
ウクライナ出身のオリガの境遇と戦う理由も印象的だったので、後の展開でショックだった。
もう彼女たちは戦場にいるようなものなんだな。馴れ合うために一緒にいるわけじゃないか…その点、セラフィマは割と正直なので読んでて不安だった。

初めての戦場で対峙した敵、失われる仲間、迫り来る自らの死。
悲しみと緊張の中でも銃を構えるとセラフィマの精神はとぎすまされ周囲の音が消え彼女は歌を歌い始める…こ、このシーンを映像で見たい。こういうシーン好き。
何にしても援軍が間に合って良かった。
戦争のさなかで異常とは何か?というのは難しい問だと思う。
逃走しようとした仲間もまた敵と同じく味方を死なせうる。だから処刑するという理屈なら、死なないために味方を守るために敵を殺すのと同じ理屈になってしまう。
それでも、認められなかったけれど助命を請うたセラフィマは尊いと思った。

美少年狙撃ユリアンがセラフィマの新たなライバルとなるかと思いきやそんなこと言ってる余裕ないか…戦場で病んでいくセラフィマを心配した。

戦場を遊び場にしてた子供たちも場違い感半端なかったけど、それだけに囮にされた話はした側の過去話と相まって残酷だった。かつて善良だった元料理人の狙撃手が教育されて罪悪感を感じなくなり子供を囮に使うまでになって死んだというのも。
セラフィマはそこまでにならないといいな。スコアを誇るぐらいであって欲しい。

女を馬鹿にしてきた歩兵たちへの対応にはすかっとした。
亡くなっていたと思っていた旧友と再開、英雄との邂逅。
その辺でも戦争が生み出す狂気、戦いの果てにあるものとは何か?丘の上に立ったものが見ているものとは何なのか?が書かれてて戦争の虚しさ悲しさを感じた。

サンドラが予想以上に複雑な登場人物だった。最初は住んでる所が戦場になった一般市民にすぎなかったんだけどな。まさか、仇敵イェーガーと関係あるとは思わないじゃん。
サンドラ、最初は流されて生きてるのかと思ってたけど全然違ってた。彼女は彼女の守りたい生命のために戦ってて勝利した。強い人だった。

最初は非情に見えたイリーナが小隊の皆にたまに見せる人間らしさや英雄である友人に見せる顔が好きだった。まさかあの写真を処分しないで持ってたのにも驚いた。
果たされた復讐、失われた戦友たち、旧友の残酷な変化。最後まで怒涛の展開。
ターニャ生き残ったの何気に嬉しかったな。分け隔てなく人々を救おうとした看護師の彼女には戦後も頑張って欲しい。
生き残った小隊メンバーのその後もそれぞれ素敵だった。シャルロッテたちはともかく、イリーナとセラフィマの関係がああなると思わなかった。

世界中が戦争の恐ろしさを知ったから平和な時代は終わらない。
セラフィマが言うと重い言葉なんだけど、人は争わずにはいられない生き物だからそうはならなかった。
紛争とか内戦とか戦争の情報を目にすると、それぞれ事情があるんだろうなとは思うのだけど、いつか平和な世が訪れて欲しい。

あ行

Posted by tukitohondana

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