夜の神話

2023年6月2日

たつみや 章
講談社
発売日:2007-02-10

マサミチは引越し先の田舎に馴染めずにいた。
ひょんなことから神様の力によって虫や木の声が聞こえるようになり、命の大切さに少しずつ気づいていく。
一方マサミチの父が勤める原子力発電所で事故が発生し、父の同僚スイッチョさんは被曝してしまう。
これは予想以上に捻くれた…というか、何ともつまらないものの見方をする主人公だな。
まずこの子がどう変化していくのかが楽しみになりました。
正道がまだ大切なことに気づけるような純粋さを失っていなくてよかった。
今回の神様の第一印象は他のシリーズより恐いでした。人に怒りを覚えているからでしょうけれど…
簡単に変わる事はできないだろうけど、サトリ草の薬の効果で正道の周囲の物事を見る目が変わったのは嬉しかった。
原子力発電所も放射能も人が作ったもの。
いくらスイッチョさんがいい人で皆のために動いたような人であっても、神様が彼を救うのは難しいだろうなと思いました。
でも、彼のために行動した正道の思いは尊いものだと思う。
困った状況だけど、正道と月うさぎの中身が入れ替わった時はわくわくしてしまいました。
ヨネハラさんの優しさがあたたかくて好きだな。
蝉や木々、猫の性格もそれぞれ個性的であたたかみがあって、独特の世界観を作っている。
たつみや章さんの作品には共通した雰囲気があって、ここが好き。
月うさぎと接しているツクヨミ様を見て、本当は優しい方なんだなと思いました。
その後の忘れ草の薬についての話を聞いた時も。
ツクヨミ様の気持ちを知れば知る程、月うさぎの正道のおなかに顔をくっつけていたツクヨミ様が愛しくなる。
人が天津神や他の万の神々を愛していたように、神々もまた地上の生き物の一つである人を愛してくれていたんだね。
月うさぎたちに関しては、ああツクヨミ様は彼らを愛しているんだなと感じて、正道と月うさぎが元に戻るシーンはちょっと泣けた。
田舎に引っ越した理由、正道の父が背負っていたもの。
危険が迫った時にも闇鬼にならずにいられるか。
原子炉に異変が起きてからは色々考えさせられました。
今回の事故は神様たちの助けで未然に防ぐことができたけれど、ご都合主義とかではなくて闇鬼にならずに最後まで諦めないで困難に立ち向かう人の前には時として奇跡が起きることもあるってことなのかなと思いました。
スイッチョさんの最後の言葉は重くて、もっと多くの人が知っているべき事だったんだろうなって思う。
正直、原子力発電を全て止めるのはすぐには困難だろうけど、確実な安全を保証できない限りは少なくとも増やして欲しくはない。
翌日に発表された内容までリアルで…真実が公にはされないのはおかしいですよね。
村山君の変化は嬉しかったな。
正道の変化は期待通りでこれまた嬉しく、これからの彼の未来には自然に優しく安全な発電所ができるといいなと思いました。
できれば私たちの未来にも。
神様三部作(『ぼくの・稲荷山戦記』『水の伝説』『夜の神話』)を読むと現実が抱える問題と人の心、人と人、自然とのつながりについて考えさせられます。
同時に現代の日本が舞台のファンタジーとしてもとても面白く心があたたかくなるような物語。
楽しみながら学べる素晴らしい作品だと思います。

た行

Posted by tukitohondana

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