銀のキス

アネット・カーティス・クラウス
徳間書店
発売日:2001-03

重い病気で入退院を繰り返す母、仕事と病院通いに追われ娘とまともに会話をすることもない父、転校していく唯一の親友。
孤独な16歳の少女ゾーイは、近所で殺人事件が起きたと知っていても夜の公園へ足を向けた。
彼女は夜の闇の中で美しい少年サイモンに出会い惹かれていく。
しかし、彼は普通の人間ではなく“呪われた種族”だった。

ロマンス要素もある王道の吸血鬼モノ。
短めなので長い小説が苦手な方にもおすすめ。ヤングアダルト向けですが、大人でも楽しめる内容ではないかと。(ただし、女性向けだとは思いますが;)

ゾーイとサイモンをはじめとした登場人物たちの内にある孤独や不安、そしてそれらが理由で他者に対して不器用な態度を取ってしまうところなどがリアルで感情移入しやすいです。
幼い頃に吸血鬼になってしまったクリストファーにはその複雑な葛藤が殆ど見られない点が興味深いです。
もちろん敵ポジションだから描いていないだけか、彼の残酷な言動が苦悩から来る苛立ちが原因だという可能性はありますが…
十代二十代のどんな小さな事にも悩み、些細なことでも傷つく敏感な年頃に吸血鬼になった場合、それらの苦悩がずっと続くとしたら。
そう考えるとぞっとしました。
サイモンは、長い時を生きたことで身についた思考を持ちますが、本質的な部分はどこか若い人のそれに近いように思うのです。
単に性格の問題なのかもしれませんけどね。
中身が成長しても、体が年をとらないというアンバランスさがあの複雑な人格を形勢させたのでしょうか?
クリストファーが自分の体に苛立ち残酷な行為に走ったように…
と、物語が短い分、書かれていないところを色々と想像できるのも面白いところだと思います。

ゾーイが抱えていた問題を、自分の気持ちや事実を素直に受け入れることで一つ一つ解決していく姿が好きでした。
誰が悪いわけじゃない、ただ~だったんだと問題の原因に気付いていく。
この感覚は私自身覚えがありますが、結構そこに行き着くまでに時間が掛かってしまいます。
ゾーイの場合は友人のロレインとの別れや母親の余命とタイムリミットがありました。どちらにも間に合って本当に良かったと思います。
サイモンの結末は悲しいですが、彼がそれを自ら望み受け入れるという形だったので救いがありました。
悲しみと切なさは残りましたが、ゾーイとサイモン、双方の抱えていた孤独と不安が取り除かれるという面だけを見ればハッピーエンドだったのかもしれません。
吸血鬼モノであると同時に、ゾーイという孤独を抱えた少女が不安や死、恋と向き合って成長していく物語かな。
 

か行

Posted by tukitohondana

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