ラビリンス―魔王の迷宮

ラビリンス―魔王の迷宮 (講談社X文庫)
A.C.H. スミス
講談社
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サラは思春期の15歳の少女。
継母との関係が上手くいかず憂鬱な日々を過ごしていた。
ある晩、泣き叫ぶ弟のおもりに困った彼女はおまじないと唱えてしまう。
おまじないのせいでゴブリンたちに攫われてしまった弟と助けるためサラは魔王の迷宮を抜けて魔王の城に向かうことに!?

映画が素敵で好みだったので、小説も読みたいと思っていました。
サラの矛盾した言動や屈折した思いが思春期の少女の心境をよいく表している気がする。
彼女の置かれた状況の詳細が確認できたのもよかった。
大掛かりな段階や出来事があるわけではなく自然にそっと物語の世界が日常に入り込んでくるのも面白い。
ジャレスがやっぱり好みなんだよなぁ。設定や言動もいい。
ホグルや芋虫との出会いで思い込みがあっては前に進めないことを、アルフとラルフと話し答えを導き出す過程で前だけを見ず周りを見て冷静に考えることの大切さをサラは知った。
ルドには今まで気付かなかったかもしれない大切な事を教えてもらっていて、サラの心境から成長が伺えてあったかい気持ちに。
ホグルも臆病なところとかジャレスとサラの間で板挟みになっている所とか人間臭いんだよね。
ジャレスもそうなんだけど、酷い所があるのに憎めない。
ジャレスの領地に住むものはすべて孤立している…か。
彼自身はその孤独から解放されたがっているようにも見えるけどなぁ。本人は否定するだろうけど。
迷宮で登場するキャラクターたちは皆どこか壊れているようで恐い。
ジャレスも映画より酷い奴っぽくてこれはこれでいい。
サラの仲間となるメンバーは、あの中では異質な感じだしな。
ちょっと不思議の国のアリスとかを思い出させる感じ。
ダンスシーンは幻想的で綺麗な印象が残っていたけど、なかなか不気味で恐いシーンでもあるな。
自分の中にある思い出だけに囚われていても大切なものに気づけない。
ジャレスの誘惑やトビーのことを忘れて現実の世界へ戻るという誘惑をはねのけることができたサラ。
ジャレス×サラ的に見ても美味しいんだよね。この展開が。
勇気を持って友を得たホグル、優しい心の持ち主のルド、頭が硬いけれど騎士としての誇りを失わないディディモス。
それぞれがサラと出会い大切なものを見出していくのは読んでいて楽しく応援したくなる。
ようやく城についたサラにジャレスが言う台詞が萌えるな…ジャレスが孤独とかの象徴だと考えると恋愛的な意味で受け止めるのはあれだけど。
彼がサラを誘惑する様は色々深読みできて美味しい。
映画のラストでは大人になるとは夢の世界とも上手く付き合いながら現実で生きることみたいな印象を受けたので、こちらの方がちょっと切ないな。
まさに「ときとして、ほしがることは…手ばなすこと」という賢人の言葉に物語が集約されているように思います。

さ行

Posted by tukitohondana

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