黎明に叛くもの

宇月原 晴明
中央公論新社
発売日:2006-07

ペルシアの暗殺法を伝える山で刺客として育てられた美貌の稚児が、兄弟のような存在と共に山を下り、己の野望を叶えるため行動を始めた。
過激でしたたかな梟雄は、妖しの法によって、武田信玄、上杉謙信、明智光秀らを翻弄する。
幻想と現実の間を行き来しつつ松永久秀の生涯を描く伝奇小説。

司馬遼太郎さんの「国盗り物語」のオマージュとのこと。

天下人となれる人物を日輪にたとえ、彼らに嫉妬する明けの明星…それが物語中での松永久秀。
子供のような無邪気さと残酷さを生涯持ち続ける彼の言動は、どうにも憎めず可愛らしい。
斉藤道三と松永久秀は、作中では兄弟のような存在となっており、二人の会話は物騒なのだけど、微笑ましく感じられました。
彼らは似ているところもあるけれど、対照的に描かれています。
彼らの野望が裏から時代を動かしたともとれる展開になっています。

もう一人の主人公といえるのが、明智光秀でしょうか。
彼が久秀に翻弄され堕ちていく様が、物語全体と通して書かれています。
久秀の使う法に幻惑され夢と現実が曖昧になっていく様が美しく、それゆえに哀れに描かれていたように思えました。

道三が認め、久秀が嫉妬した相手である織田信長の婆娑羅な言動もまた素敵でした。
残酷なんだけど人柄に惹かれる、また梟雄二人とは違う魅力がありますね。
他に、道三の娘であり信長の妻でもある濃姫が予想外の可愛さでした。
久秀や光秀との会話には笑わせてもらいましたよ。
久秀が操る傀儡の果心は、物語で久秀が活躍する上で重要な存在の一つなのですが…主に反抗したり、主を貶したりして楽しませてくれます。
とにかく、魅力的な登場人物が一杯いるので、少し長めですがとっつき易い小説になっていると思います。

あ行

Posted by tukitohondana

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