死の影の谷間

死の影の谷間 (海外ミステリーBOX)
ロバート・C. オブライエン
評論社
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核戦争後、放射能汚染をまぬがれた谷間で、一人生き乗った少女アン。
そこへ見知らぬ男が現れて…

日記のような形式で物語が進み、緊張感が伝わってきます。
男が谷にやってくるまでは日常的な内容の中に漂う孤独感がなんともいませんでした。
謎の男が現れてからは、彼は何者なのか気になりつつアンと一緒に不安になったり喜んだりしていました。
一方的にアンが男を観察している状況での展開も面白く、わくわく。
二人が顔を合わせてからは思いのほかあたたかく優しい展開でほっとしました。
暗い世界の中でアンとルーミスの互いへの気遣い。
アンの未来への思いはあたりを照らす光のようでいいなぁ。(そう感じていただけに後の展開はショックが大きかったのですが…)
ルーミスが谷に来たばかりの時とエドワードとの過去のやり取りがミステリーぽいかも。
作中のような状況ならよっぽど問題のある人物でもない限り生きていて欲しい、一緒にいたいと思うかもしれない。
読んでいてもルーミスに対して嫌悪も咎める気持ちもほとんど湧かなかった。
ただ、戦争が始まった時防護服が一着だけある場所に取り残されたルーミスとエドワードの事を思うと気の毒で切なかった。
ルーミスの回復はとても嬉しかった分、その後の彼のアンへの態度が憂鬱でした。
彼の胸の内を想像するしかないので、アンの恐怖もよく伝わってくるし。
一方で歳の差萌えできる二人なので期待もあったのですけどね…
ちょっと後ろめたい気もするけれど、二人の駆け引きはドキドキしながら読んでいました。
命さえかかったものだけに緊張感もあるし。
実際こんな状況になりたくはないけれど、物語としては面白くて好きだな。
人間性について考えさせられる作品でもあった。
通常時ならルーミスの行動は酷くて責めたくなるものだった。
でも、世界で住める場所、食料、そして人間が限られてくるとどうも同情的な思いも湧いてくる。
世界にたった二人だけ生き残って(そこまでいかなくても二人だけでどこかに取り残されたとしても)こうなったら辛い。
対称的とも言える二人だけれど、それぞれどちらも人間的でリアルな思考と言動をとっているようで臨場感があった。
ファロ、アン、ルーミス、それぞれの結末は残酷で寂しく虚しく感じたけれど、ラストはほんの少し希望が持てた。
自分に置き換え色々考えさせられる話でハッピーエンドとは遠い物語でありながら、後味はさほど悪くない。
アンが好きだったのと彼女の今後の幸せを願えるからなのかもしれない。

あ行

Posted by tukitohondana

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