親切がいっぱい

2022年7月24日

泥棒やヤクザなどの職業も免許さえ持っていれば認められている世界。
すべての職業が許可制になっているそんな世界で、ボランティア斡旋所兼便利屋に勤める良子は、頼りない所長に代わって奮闘する日々を送っていた。
そんなある日、困った問題がもちあがる。
地元のヤクザが彼女の住む日の丸ハイツからの立ち退きを要求してきたのだ。
住民は会議を行うが、そこに奇妙な生き物“マロくん”が迷い込んできて…
非日常にもゆるがない日常の強靭さを描いた異色作。
ボランティアの斡旋がまだ認可されていないのはともかく泥棒が認可された職業だというのが面白い。
最初はちょっと変わった職場の日常といった印象で少しずつ独特な世界観や登場人物が出てきて物語に引き込まれていく。
泥棒コンビは呼んでて和む。
大迫老人は物騒だけどかっこいいな…まぁ夜中に戦闘機飛ばしてたのは迷惑だと思うけどね;
酔った皆の会話がなりたってないけど読んでて楽しかった。
宇宙人の登場が自然。そしてなんか言動というか仕草が可愛い。
兼太は最初は苛々させられたけど少しずつ憎めない人だなと思い始めた。
一番平凡な雰囲気なのに変わったメンバーと上手くやってる良子がなんか好きだ。
ヤクザも裏家業ではなくなっているせいかなんか波瀬さんとの会話も不思議な感じ。
そして尾張さんのボケっぷりが…後半に行くと自分でつっこみまでしてて吹き出した。
この人、頑張っているのはわかるんだけど、ずれてて面白い。
大迫さんと伊丸さんの恋物語とやり取りは微笑ましい。
アパート住人の集まりに自然と混ざっている尾張さん。
この集まり好きだ。
追い出されないといいなぁ…と思いながら読んでました。
「いい人間だからすきになるってものでもない」「なにかの役に立つから好きになるわけじゃない」って台詞が出てくるけど、もっともだなと思う。常々思っていたことなので。
武井さんと土井さんコンビはどこか頼りない泥棒だけど、会話から武井さんは面倒見が良さそうなのが伝わってくる。
後半一番の腕の見せ所はかっこよかった!
政府に認められればどんな犯罪も仕事で、泥棒すら職業。
一見自由に見えるのに、認められていればいいという気はしないし、やってる本人たちすら窮屈そう。
宇宙人がやってくるけど、その宇宙人には特に目的がなさそうで住人たちの日常に変化はない。
事件は起きるけれどそれも宇宙人とは無関係。
そこが不思議なのに自然でむしろあの世界の日常の変な所を際立たせてくれる。
しかし、その変な所もどこか身近に感じられるもので…そこが面白い。
たとえどんな世界で何が起きても、人間の日常はそう揺るがない。
生き生きとした登場人物とマロの姿に少し勇気付けられた気がしました。

神林長平

Posted by tukitohondana

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